こんにちは!今回も知っておきたい発達障害に関するノウハウや情報を提供させていただきます。本日は「知的障害と発達障害の違い」についてです。
知的障害と発達障害の違いについて、次のような3つの説明をよく目にします。
- 知的障害は発達障害の一部である
- 発達障害と知的障害は重複することがある
- 発達障害と知的障害の明確な区別はついていない
知的障害と発達障害の違いを知りたくて調べた結果、「結局どういうことなの?」と混乱している方もいらっしゃるのではないでしょうか。専門的な知識があれば、難しいことではないのかもしれません。しかし、専門的な知識がないのでインターネットで調べてみようという人の方が多いはずです。
この記事では、この3つの説明についてわかりやすく解説していきます。
発達障害の広義と狭義

発達障害に大きなくくり(=広義)と限定的なくくり(=狭義)の2つの考え方があることが、情報の混乱の原因になっているようです。

一体どういうことなのか見ていくことにしましょう。
まずはDMS-5とICD-10について簡単に説明します。
【DMS-5とICD-10】 ・DMS-5はアメリカ精神医学会が出版している精神疾患の診断基準を示したもの ・ICD-10は世界保健機構(WHO)が作成した疾病全般の診断基準を示したもの ※この二つには分類や病名に少し違いがあります。どちらも医学的な診断基準のマニュアルですが、日本国内においてICDは行政的な統計や定義にも使用されています。 |
それでは、広義と狭義について見ていきましょう。
DMS-5における広義と狭義
まずはDMS-5の分類について説明しましょう。

DMS-5では図1のように「神経発達障害」という大分類下に7つの分類があります。DMS-5における広義の発達障害とは赤い点線で囲まれた部分、つまり「神経発達障害」という大分類のことなんです。そして、狭義の発達障害というのは、青い点線で囲まれた6つの分類の部分を指しています。
ICD-10における広義と狭義
次にICD-10の分類を見てみましょう。

DMS-5の神経発達障害(広義の発達障害)に当たるのは、ICD-10では図2の赤い点線で囲まれた部分になります。DMS-5では1つだけの大分類が、ICD-10では3つに分かれているんです。また、DMS-5の狭義の発達障害に当たるのは、図2の青い点線で囲った部分の2つの大分類になります。
狭義の発達障害の2つの大分類を細かくみてみると、大分類F8の中に7つの分類、大部類F9の中に8つの分類、全部で15この分類が含まれていることがわかります。狭義におけるDMS-5の6つの分類とICD-10の15の分類は、複雑に対応しあっているんです。どう対応しているのかの詳しい解説は、情報が煩雑になるため今回は割愛します。

知的障害は発達障害の一部である?
知的障害は発達障害の広義には含まれるが、狭義には含まれないというのが正解です。
前述の通り、発達障害には広義と狭義があります。専門家や発達障害などを学んでいるひとでなければ、一般的にはこのことを知っている人は多くないでしょう。前提知識がないと、情報が正しく伝わりませんよね。
ちなみに、行政の使う発達障害は、狭義の発達障害をさします。知的障害者の支援には「知的障害者福祉法」が制定されていました。のちに、発達障害者を対象とする「発達障害者支援法」を制定されます。
もともと知的障害者福祉法では知的障害者の定義はありません。
知的障害
引用元:厚生労働省
「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」と定義した。
上記の厚生労働書の定義で運用しているんです。発達障害者支援法では対象者を知的障害者と区別するために狭義の発達障害を定義に用いています。
また、手帳も異なり発達障害者支援法では「精神保健福祉手帳」、知的障害者福祉法では「療育手帳」が交付されます。
発達障害 | 発達障害者支援法 | 精神保健福祉手帳 |
知的障害 | 知的障害者福祉法 | 療育手帳 |
「発達障害者支援法」では支援や援助だけでなく、障害の有無によって分け隔てられることがない社会の実現も目的とされています。
それぞれの手帳についてや行政サービスについて、もっと詳しく知りたい方はこの記事も是非併せてお読みください。
発達障害と知的障害は重複することがある?
発達障害と知的障害は重複することがあります。ざっくりとですが図3に示しました。

- どれか1つの発達障害の人もいる
- 2つ以上の発達障害を伴う人もいる
- 学習障害を除く1つ以上の発達障害と知的障害を持っている人もいる
※学習障害には知的障害がないと定義しているので、この二つは重なりません。
図3から上記のようにいろいろな要素が複雑に絡んでいることがわかります。このあたりも情報が混乱する原因があるのかもしれません。
発達障害と知的障害の明確な区別はついていない?
現実的には発達障害と知的障害を明確に区別するのは非常に困難です。発達障害と知的障害の境界線だけでなく、狭義の発達障害同士の境界線も曖昧です。知的障害や発達障害は、インフルエンザなどのように明確な診断ができるものではないといえます。
なぜなら、発達障害のどの分類に当てはまるかは、一定の条件を満たすことで診断されるものが多いためです。たとえば、ADHDと診断するためには「このような条件に当てはまる場合にはADHDと診断します」というような細かい条件が5つほど設定されており、その条件を満たすとADHDと診断されます。
診断は条件に合致するかどうかだけでなく、言語障害の有無、他に併存している分類があるかなどいろいろな要素を含めて下されるものです。どのような傾向があるかなど、比較的曖昧な要素も含まれます。
場合によっては不安症やうつ病など二次障害が起こることもあります。
DMS-5やICD-10を使った分類の意味は?
- 医療的には適切な薬物療法や心理的なケアなどができる
- 行政的には適切な公的支援ができる
DMS-5やICD-10の基準で分類することで上記のような利点を得られます。専門医の診断で障害の傾向をつかみ分類することで、障害を持つ人の生きづらさや困難を少しでも和らげられる可能性があるんです。明確な診断が難しくても、専門医や専門機関に相談することはとても大切なことだといえます。
参考動画:精神科医の解説【知的障害・発達障害の違い】
以下の動画でも【知的障害と発達障害の違い】について、わかりやすく解説されています。
まとめ
- 知的障害は発達障害の広義には含まれるが、狭義には含まれない
- 知的障害と学習障害を除く発達障害は重複することがある
- 知的障害と発達障害を明確に区別することは困難である
- 分類することは、医療的にも行政的にも必要なことである
知りたい情報を集めるのには、インターネットは本当に便利です。しかし、情報がたくさんありすぎて、逆に疑問が増えてしまうことも。そんなときには何を基準にしているのか、どの視点からの情報なのかに注目すると、わかりやすくなるのではないでしょうか。今回はそんな混乱を解消するために様々な表現に沿った形で解説してみました。
なお、知的障害や発達障害について、自己判断はすべきではありません。必ず専門医や専門機関に相談するようにしましょう。
